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脳の中にあるブランドが味にも影響?
コカ・コーラvs. ペプシコーラ
ニューロマーケティングが世界に認知されるきっかけとなった、2004年の論文を紹介します(大変有名な事例なので、すでにこの話は知っているよ!という方も多いかもしれませんが、あしからず)。
コカ・コーラとペプシコーラに対する消費者の好みを、脳科学的アプローチで解釈した、米国ベイラー医科大学(現Virginia Tech Carilion Research Institute)のモンタギュー博士らの研究成果です。
コーラといえば!?
コカ・コーラとペプシコーラですよね。どちらも黒色で味も似ており、世界各国で親しまれている炭酸飲料です。ですが、大きな違いがあります。
ブランド価値です。
1日18億杯の飲料を世界200ヶ国で販売するコカ・コーラは、企業価値ブランドランキング開始以来、昨年まで13年連続で世界1位を独走し続けた最強ブランドです(現在3位)。対して、ライバルであるペプシコーラのペプシコは22位前後と、ブランド価値では大きく差を開けられています。
では、このブランド価値の差は、味の好みにおいても影響しているのでしょうか?
モンタギュー博士らは、fMRIという脳の活動度を脳血流で計測する方法を用いて、コカ・コーラとペプシコーラの「ブランドを隠した状態」と「ブランドを見せた状態」で、どちらかを選ぶ時の脳の反応を比較しました。
実験の結果、「ブランドを隠した状態」では、コカ・コーラとペプシコーラは同じように好まれて差がありませんでしたが、「ブランドを見せた状態」では、コカ・コーラがより好まれる傾向を示したのです。そして、この時、脳の反応が違いを示しました。
コカ・コーラを見せた時だけ反応して、ペプシコーラを見せた時では反応しなかった脳の部位があったのです。
海馬と背外側前頭前野(DLPFC:Dorsolateral Prefrontal Cortex)です。海馬は、記憶の処理を司る有名な部位です。背外側前頭前野は、前頭葉の前側の前頭前野の外側に位置(下図46の部位)しています。この部位は、行動を実行するための判断を処理する機能を司り、作業記憶(ワーキングメモリー)という、一時的に情報を保ちながら作業を処理する機能部位と関係しています。
これらの脳の役割から、記憶を司る海馬と、判断処理する背外側前頭前野が一緒に活動することで、「過去の記憶(経験)にある価値の中で、自分が好きなブランドだから、コカ・コーラの味の方が良い」などと、ブランド価値と味を照合して、味の好き嫌いを判断したのではないかと考えられます。
純粋な「味」の評価では、コカ・コーラとペプシコーラも同じでしたが、ブランドを見せることによってブランドの価値が、コカ・コーラの味をより「おいしい」と、脳が感じさせたという解釈です。
口にいれたときの味覚への刺激によってのみで「おいしい」と単純に判断するのではなく、ブランド価値という記憶(経験)が「おいしい」という判断に影響し、その仕組みが「脳の中にある」ことが実証されたのです。
この結果は、「消費者は質の良い商品を作れば選ぶはずだ」という考えが主流であったマーケティング業界に、大きなインパクトを与えました。莫大な広告費によって作られるコカ・コーラのブランド価値は、脳の中にもしっかりと刻まれていたのです。
他方、ペプシコーラは、味に関してはコカ・コーラに追いついたともいえます。今後は広告宣伝に増資し、ペプシコーラのブランド価値を脳の中にまで高めることが、売上を伸ばす効果的な戦略となり得るのではないでしょうか。
このようにして脳を見ることは、これまで気づかなかった商品の強み(味)・弱み(ブランド価値)を把握し、新たなマーケティング戦略を策定する重要なツールであることは間違いないでしょう。
次回では、飲料調査で重要なテイスティング方法が、好き嫌いの判断に影響する事例を紹介させて戴きます。また次回に!
(*)引用させて戴きました論文と、企業価値ブランドランキングです。
Neural Correlates of Behavioral Preference for Culturally Familiar Drinks
http://www.cell.com/neuron/abstract/S0896-6273%2804%2900612-9
Interbrand – Best Global Brands
http://www.interbrand.com/ja/best-global-brands/2013/Best-Global-Brands-2013.aspx